今回の舞台は宮城県。2022年にオープンしたスペシャリティコーヒー専門カフェ「I'NOVEL COFFEE(アイノベル コーヒー)」のオーナー、鈴木 麻美氏を訪ねた。
仕事を楽しんでいれば、自分もお客様も笑顔になれる
楽しみながら働く人の姿はカッコいい。鈴木氏も、そんな風に考えるひとりだ。「楽しそうにドリップする人だなって、お客様から見てもらえるように、コーヒーを淹れたいです。あとは、無理に話しかけるんじゃなくて、笑顔でいるように心がけています。気難しそうな顔をしていたら、お客様も緊張しちゃうだろうし、私が笑うと、笑い返してくれる人が多くて、うれしいんです」
さまざまな人の想いを感じて、コーヒーを淹れていく
鈴木氏は、もともと保育士だったが、趣味のコーヒー好きが高じてバリスタの道へ。山形県のスペシャリティコーヒーショップ「side slide coffee(サイド スライド コーヒー)」で約2年間アルバイトをして、コーヒーのいろはを学んだ。ちなみに、スペシャリティコーヒーとは、農園からカップまで、トレーサビリティが明確なコーヒーのこと。その味わい、香り、品質にも高い基準が設けられている。
「一杯のコーヒーができあがるまでに、たくさんの人が関わっているんだよって、山形のカフェのオーナーがよく教えてくれました。生産者がいて、焙煎する人がいて、ドリップをする人がいる。そんな当たり前のことに感動してから、何も気にせずに飲んでいたエチオピア産とかブラジル産のコーヒーが、もっと特別になりました。お客様にも、そんな経験を提供できるように、コーヒーをおいしく淹れたいです」
日常に寄り添う一杯で、誰かの物語も紡いでいきたい
「アイノベルコーヒー」があるのは、仙台駅から西に向かって12分ほど歩いたところ。コンクリートと木材を組み合わせた、クール×ナチュラルテイストの外観で、落ち着いた住宅街の風景によくなじむ。入り口の横には出窓が設けられていて、店内に入らずとも気軽にコーヒーをテイクアウトできる仕組みだ。「店名の“I’Nobel”というのは、“私の小説”という意味です。この店は私の物語そのものですし、コーヒーを飲んだことがお客さんの思い出になってくれたらいいなって願いも込めています」
内装はいろとりどりの石を埋め込んだカウンターと、一枚板のベンチで構成されたシンプルな設計。甘く香ばしいコーヒーの香りが漂う、リラックスできる空間だ。「お散歩の途中や通勤中など、ここに来ることがメインじゃなくてもいい。日常のちょっとした時間に立ち寄ってもらえるような、地域のお店になりたいと思っています」
「アイノベルコーヒー」のスペシャリティコーヒーは、程よい酸味とフルーティなー甘味を感じるスッキリとした飲み口だ。コーヒー豆は、山梨県甲府市にある「AKITO COFFEE(アキトコーヒー)」が焙煎したケニア産のもの。コーヒーは浅煎り、ラテは中深煎りというように、飲み方によって焙煎度合いを変えている。
「深煎りの香りが際立つ華やかなタイプも好きですが、お店で提供するなら、浅煎りがいいなと思って。毎日でも飽きがこなくて、気軽にコーヒーを飲んでもらえるはずです」
“いつも通り”の一杯と服装で、お客様をお出迎え
ドリップ中は、一杯ずつ秒数と重さをしっかり図る。同じレシピでも、感情がコーヒーの味わいに影響してしまうため、平常心をキープすることも大切なポイントだ。コーヒーの味と同じく、鈴木氏は仕事中の服装も基本のスタイルを決めている。トップスはシャツで、パンツはスラックスやカーゴパンツ。動きやすくて、清潔感のある装いで、“いつものお店とコーヒー”を準備する。
「パンツは太い方が好きです。ナイジェル・ケーボンのカーゴパンツは、生地が丈夫でしっかりした見た目ですが、フィット感もいいし重たく感じません。ポケットなどディテールが多くて機能的なところも気に入っています」
偶然の出会いを楽しんで、スタイルと店を作っている
休日も服装は仕事着とほとんど変わらない。強いて言えば、ネックレスやリングなどジュエリーで彩ってレディに仕上げるくらい。「何かを目掛けて買い物へ出かけるというよりは、偶然見つけたお気に入りを買って帰ることが多いですね。例えば、このほうきもそうして見つけたもの。洋服を選ぶ時もあまり悩んだりしないかな。出会いを大切にしたい気持ちが大きくて、それは服装だけじゃなくて、お店づくりにも影響しています」
最高の一杯を淹れ続けて、ステキな物語を描いていく
一人ひとり個性が違うように、コーヒー豆も種類や収穫時期によって味わいが違う。これまでも、これからも、そのコーヒーのベストな味わいを鈴木氏は追求して、ストーリーの続きを紡いでいく。「きちんとドリップすれば不味いコーヒーはなくて、テイストが口に合うか合わないかだけ。だから、私は私が思う最高の一杯をお客さんに提供したいんです。ゆくゆくは現地の農園を視察して、契約農家からコーヒー豆を仕入れて、焙煎もしてみたい。とにかく、おいしく淹れることを続けていく。あとは、直感に身を任せて、自分が楽しめる道を進んでいけたらいいなって思います」