今回の舞台は福岡県。2018年にオープンした自家焙煎珈琲店「珈琲いわくま」のオーナー夫妻、岩隈 聡氏と岩隈 陽子氏を訪ねた
珈琲店としての自覚を持ち、真摯にコーヒーを淹れる
「珈琲いわくま」のメニューは、ほとんどがコーヒーで、他には奥様お手製デザートが少しあるだけ。メニューが豊富に揃う華やかなカフェとは違う、大人の珈琲店だ。「当店ではコーヒーの販売に注力をしています。コーヒーの生豆を一粒一粒チェックして傷モノを選り出したり、気温や豆の状態によって加熱具合を調整してローストしたり。お客様に説明できるようにコーヒー豆の焼き加減や味をわかっておきたくて、コーヒーの焙煎から抽出まで全て自分で行なっています」
「当店では珈琲の販売に注力をしています。コーヒーの生豆を一粒一粒チェックして傷モノを選り出したり、気温や豆の状態によって加熱具合を調整して焙煎します。豆の焼き加減や香りを説明出来るように焙煎から抽出まで全て自分で行なっています」
若かりし頃に憧れた姿を追いかけて、技術を磨いてきた
聡氏が店を開いたのは40歳になったばかりの頃で、珈琲や喫茶店には20代から興味を持った。その頃,福岡市中央区にあった老舗珈琲店の店主やその店に集まる大人たちのセンスにも惹かれて、珈琲の世界にどっぷりと浸かっていく。前職は自動車ディラーの営業。焙煎や抽出などの技術は、業界の先輩や書籍を頼りに、独学で磨いてきた。一連の作業は月日を重ねるごとに洗練されていき、今では使用する道具はシンプルで数も減っている。
「35歳くらいから独立に向けて、資金を貯めていました。ただ、何をするのかぼんやりとしか決めていなくて、ふと頭に浮かんだのが以前通った老舗喫茶店でした。薄暗い店内で静かにコーヒーを淹れていた店主がカッコ良くて。手汗をかくぐらい緊張感のある場所でした。そんな忘れられない当時の記憶を参考に、この店を作ったんです」
コーヒーをゆっくりと味わえる、大人の空間に整える
店があるのは、大通りから一本入った小道沿いのコンクリートビルの一階で、周辺は住宅街。近所に用事がない限り誰も通りかからないような場所がゆえ、必然的に客層はコーヒーや喫茶店好きが多い。コーヒーの香りが漂う店内は、コンクリートの壁と木材のインテリアが絶妙にマッチしたモダンな空間。壁面には木のオブジェやアートが飾られており、洗練された雰囲気の中でコーヒーを楽しめる。
「毎日いらっしゃる方も多いので、アートや盆栽は定期的に交換して、ちょっとした変化をつけるようにしています。ちなみに、盆栽を置いている什器は、家内の実家で見つけた重機の部品をDIYしたものなんですよ」
現在のいわくまブレンドは、グアテマラ産トップスペシャルティコーヒー豆をベースにした中深煎り。苦味や酸味が程よく、毎日飲める奇をてらわない味わいだ。デザートは定番のチーズケーキに加え、夏期はコーヒーゼリーも仲間入り。ラム酒が隠し味のゼリーとミルキーなバニラアイスクリームに黒蜜をかけて食べる、陽子氏のアイデア作。心地良い苦味が楽しめる大人のデザートで、茹だる夏にふさわしい一品。
白シャツ×チノパンを仕事着にして経年変化を楽しむ
聡氏の基本の仕事着は、〈ナイジェル・ケーボン〉のブリティッシュオフィサーズシャツにニューベーシックチノパンツの組み合わせ。「私の大好きな近所の珈琲店の方が、いつも白シャツを着ていらして、自分も着るようになりました。着るものを決めているとコーディネートを考えないで済むからラクです。このシャツは長く着ることで生地の表情の変化も楽しめます。定番品で少しずつアップデートされているんでしょうけど、私が気づかない程度で安心感があります。いつでも買い足せるところもポイントですね。同じものを8枚は持っています(笑)」
プライベートでは白シャツを脱いで、ミリタリーやワークウェアを着ることも。最近はニューメディカルシャツに心酔している。「生地が柔らかいので、サラッと着やすいんですよね。それに耐久性も高い。こういうタイプの服は、ある程度着た方が魅力的になると思っていて、エイジングによる表情の変化も楽しみのひとつです」
素材がいいもの同士なら着まわしできて着心地もいい
陽子氏も〈ナイジェル・ケーボン〉の服を愛用中。この日はUSMCロングスリーブシャツに、ブレイシーズワークパンツをコーディネート。白を基調とした着こなしが、清潔感のある店内によくなじむ。「天然素材で、着心地のいい服が好きです。トップスはゆとりのあるシルエットで動きやすくオールシーズン着られるし、パンツはウールリネンの生地がサラッとしていて気持ちがいい。それぞれ私の持っているお洋服との相性がよくて、単品でも活躍してくれています」
基本のスタイルを崩さず、新しいものにも目を向ける
店の入り口側の壁は全面ガラス張りになっていて、客席から外に目を向けると、大きなニレケヤキが目に留まる。春夏秋冬、その日の天気によって変わり続ける窓の景色のように、新しいものに目を向けながら、岩隈夫婦は自分たちの信念を軸にこれからも店を守っていく。「競合や大手チェーン店が近くにできたり、マンションが取り壊しになったりすることだってあります。そんな時でも、自分たちの基本のスタイルは大切にしつつ、必要なら変化も取り入れる。たくさん店を増やしたいとか、そんな気持ちは今はなくて、体が健康なうちは店を細く長く続けられたらいいなって思っているんです」