今回の舞台は福岡県。2003年にオープンした台湾料理店「新世界 檳榔の夜(シンセカイ ビンロウノヨル)」の店長、上薗 哲哉氏を訪ねた。
お客様のサポートに徹して店のファンを増やしていく
上薗氏の理想は、目配り気配りが行き届いた気の利く台湾料理店。長く愛される店を目指して、料理の味だけではなく、店の雰囲気づくりやサービスの質にもこだわる。「痒いところに手の届く接客を心がけています。例えば、箸を落とされたらすぐに清潔なものと交換するとか、グラスが空になっていたらドリンクを注ぎにいくとか。お客様に店のファンになってもらえるように、もしもスタッフが入れ替わってしまっても、サービスは同じクオリティーでご提供できるようにしたいんです」
失敗の原因を追求し、その度に働き方も改善してきた
上薗氏が料理を始めたのは、「新世界 檳榔の夜」のオープンから。それまでは、同じ系列のバーでバーテンダーをしていた。当時の博多駅周辺では台湾料理専門店は珍しく、オープン直後は来客万歳の状態が続いた。しかし、数年経つと客足が徐々に遠のき、上薗氏は飲食業界の洗礼を浴びることに。「料理の修行を積んだわけでもなく、最初の1、2年は失敗の連続でした。不味いと言われて、お客様に帰られてしまった経験もありますね。でも、そうやって失敗するたびに、自分の行動を振り返って、少しずつ営業の仕方を変えてきたんです」
アンダーグラウンドな台湾屋台のムードを博多で再現
コンセプトは、台湾の飲み屋街の路地裏にある屋台。博多市警固エリアの住宅街の奥まった一画にあり、店の目印は大通りに配された青いスタンド看板のみ。店の入り口は大通りから横道に逸れた、わかりにくい場所にある。店内は異国情緒あふれるノスタルジーな雰囲気で、台湾の街並みやカルチャーを感じられるディスプレイに心がおどる。夜になるとカラフルな電飾が輝き、昼間とは違った顔に。スパイシーで香ばしい独特の香りが店内に漂い、まるで現地にいるような気分で台湾料理を楽しめる。
「台湾は活気があっておもしろい。なかでも好きなのは、薄汚れた路地裏エリアで、台湾に行くときは必ず立ち寄っています。台湾料理を研究していくうちに、どんどん台湾が好きになっていきました」
看板メニューは、台湾で親しまれている大衆料理の魯肉飯(ルーローハン)。甘辛いスパイシーな醤油タレに漬け込まれた豚肉と卵をご飯の上に乗せた丼もので、上薗氏の作る一杯には、ほんのり辛い高菜漬けも添えられている。追加でパクチーをトッピングすることもでき、それらを思い切り混ぜ合わせるのが、上薗氏おすすめの食べ方だ。「レシピ本を参考に作って、それからオリジナリティのある味付けにしました。私は生まれも育ちも九州なんで、ウチのは一般的な魯肉飯より甘い仕上がりになっちゃいましたね」
遊び心を忘れずに、自分らしい装いで毎日を楽しむ
上薗氏のお洒落の定義は“ダサかっこいい”。 人によっては“ダサい”と思うデザインの服でも、カッコよく着こなせる人に憧れてきた。「髪型をご覧の通り、私は人と違うことをしていきたいと思っていて。それはファッションも同じで、遊び心が大切です。でも、仕事中は汚れてもいい服を着ることが多いかな……(笑)」
「普段はもちろん、釣りに行く時も穿いていきますよ。ポケットになんでも入れられるし、これを穿いていれば、他の釣り人とファッションが被りませんしね」
必要なものをポケットに入れていつか旅に出かけたい
昔、バックパッカーに憧れていた上薗氏。好きなスタイルはアウトドアやアメカジで、以前はくたっとした古着コーデが多かったが、最近は新品の白いトップスを意識的に選んで、清潔感のある服装を心がけている。そんな上薗氏のワードローブで、〈ナイジェル・ケーボン〉のアーミーカーゴパンツが活躍している。「タフな生地とワイドなシルエットを気に入っています。自分の服装と相性がいいし、サンダル、ブーツ、スニーカー、どんなシューズを履いてもしっくりきますよ。ポケットにキーケース、スマホ、財布、嗜好品、出かける時に必要なものを全部入れて、また台湾に行きたいですね」
次世代のスタッフと共に、店の未来を切り開いていく
「新世界 檳榔の夜」は21年目、上薗氏は45歳を迎えた。次世代にバトンを渡せるように、スタッフと連携をとりながら準備を進めている。「若いスタッフも増えてきて、20代の子なんて、自分の子どもみたいな感じ。私の感覚も古臭くなってくるし、彼らに仕事を引き継いで、一緒に店を大きくしていきたいと思っています」