ナイジェル・ケーボンにしか生み出す事ができない【ARMY CARGO PANT】

 【ARMY CARGO PANT】のデザインの背景は、米国と英国のヴィンテージミリタリーパンツにあります。それぞれの特徴を取り入れアレンジを加えており、特にアメリカ軍からはM-51のディテールを色濃く反映させています。

 ここでは秀逸なオリジナルのM-51について触れておきましょう。

 オリジナルのM-51は、現代まで繋がるミリタリーパンツの系譜の中でのエポックメイキング、或いは金字塔と言い切っても良いプロダクトです。この登場以前にも当然ミリタリーパンツは存在しましたが、それら全ての歴史を含めて、M-51以前、M-51以後と区分けができるほどの存在です。

 後にM-65へと連なるこのパンツは、ミリタリーカーゴの特性をよく表しています。後継品であるM-65の素材はコットン・ナイロンの混紡糸。ナイロンは摩擦強度、引っ張り強度に優れ、水に濡れてもすぐに乾きます。M-51はナチュラルなコットン100%。速乾性はM-65 に劣りますが、使い込んでもピリングが生じることがなく、快適に着用することができます。またそうした特性から自然な色落ちを楽しむ事ができるのも大きな魅力です。

 さらに、コットン100%であることで、工場ロット、年代ロットによって微妙な表面感の違いを楽しむ事ができるのも大きな特徴です。もちろん、これは当時の生産者が意図したことではありませんが、原料がピュアコットンだけに、安定したコットン・ナイロンには決してない揺らぎがあります。デッドストックのものを比較してもその差はありますし、ユーズドの場合は使用環境の違いによりさらに違いがでます。原材料のコットン短繊維の品質の差、或いは撚糸、製織密度の差などが増幅されるからです。時の流れを経て、微起毛が生じ極めて柔らかな風合いに流れるもの、或いはファブリック全体にハリが生じ、かさついたドライタッチを生じるもの、材料の糸のもつムラ糸形状が確認できるほど製織組織の目のたったもの等、それぞれが豊かな表情を見せます。また、厳格なミルスペックに則って生産されているものの、広大な合衆国の中での産地によるコットン品質の微妙な違いをうかがい知ることができます。

 それがピュアなコットン100%ならではの楽しみのひとつです。

 M-51のウエスト外周には前面に4個、背中心に2個のボタンがセットされています。これはサスペンダーを装着するためのボタンです。通常の近代的なパンツの持つベルトループもセットされています。このループは欧州のミリタリーパンツ、特に英国のそれと比較するとかなり華奢なことに気がつきます。しかし、地の目の取り方が秀逸で、多少ダメージを受け、ほころびたとしても簡単にはちぎれません。別の言い方をすれば、ダメージが発生してからちぎれるまでにかなりの時間があるので、その間になんらかの対処をする時間的な余裕があります。

 M-51には、さらにウエスト周り内側に三箇所、頑丈でナチュラルテンションを持つように注意深く設計されたコットンテープを持ちます。小さなパーツですが、このコットンテープの素材と組織は非常に優れています。シルクのように素材が高価なわけではなく、複雑な織り設計が施されている訳でもなく、単なる綿の平織テープですが、実用に徹した厚みとテンションが素晴らしい逸品です。このテープが第3の固定方法である、金属フックを持つ専用サスペンダーに対応するためのディテールです。力のかかるパーツだけにウエスト表裏に挟み込まれ、さらに2箇所をカンヌキでがっちり固定されています。そのため比較的細かいパーツですが、まず脱落の心配はありません。サスペンダーはかなりの過重、時として体重以上の過重がかかりますから、この丈夫な仕様は当然と言えば当然なのですが、それにしても設計思想の優秀さを実感させられる部分です。

 M-51 専用のサスペンダーは両脇前方の2箇所だけを引っかけ、両腕に輪っかを通し背中でクロスさせパンツを支えるちょっと変わった方法です。一見頼りなさげですが、装着すると実用に充分であることがわかります。またこの他にも背中心に同様のテープが用意されているので、3点で支えるサスペンダーも使用可能です。

 ポケットは全部で6個、前面にふたつ、尻にふたつ。それぞれすべてが機能性に富んだドットボタン付きフラップを持ち、内容物の脱落を防ぎます。単純な事実ですが、ドレスウェアのパンツのポケットには、フラップは付いていません。本製品は、「すべての」ポケットにフラップがセットされています。普通のパンツが自然に立ったり歩いたり、あるいは座った状態を前提にしているのに対し、ミリタリーカーゴが全く違った環境を想定し設計されていることが実感できます。両腿部分に大きな容量を誇るカーゴスペースがあります。後ろ方向へ畳むプリーツが施され、内容量のアップに一役買っています。フラップは前方は完全に閉じられ、中央、後方の2箇所をドットボタンで固定するようになっています。やや変則的な造りですが、使い込むと極めて合理的な設計思想に驚かされます。

 このカーゴポケットには後ろ下部にホールが開けられており、ここからドローコードを出せるようになっています。この紐はポケット自体を上から縛って内容物を固定できるようにする目的があります。ポケットのなかでモノが暴れて動きにくくならないようにするため、そして静粛性を保つためのパーツです。この使用方法は当時の指示書に明確に図解されています。しばしば足を負傷した際の止血帯であると紹介されていますがそれは緊急時の応用方法であり、主目的ではありません。そのような緊急時にはむしろ切り離して使用するケースが多かったかもしれません。このパーツは1本のロープを折り畳み、折り畳んだ頂点と本体をカンヌキで留めてあります。さらにそこから約4cm上方でさらにカンヌキステッチが打たれています。カンヌキを引きちぎるようにナイフでカットすることも可能ですし、ロープの根本をカットしても上部のカンヌキによって結合されているので一本の紐がバラバラになることはありません。

 M-51は寒冷地での運用を想定して、ライナーをセットすることができるよう設計されています。と、たいていの説明はそこで終わってしまうのですが、先があります。日本を含む温帯の冬ではその説明で十分かもしれませんが、アラスカでは不充分なのです。

 M-51の最大限の重装備は4枚を重ねます。肌に近い順番に列記します。
・M-51ライナー
・本製品のモデルM-51本体
・M-51アークティックトラウザーライナー
・トラウザーズシェルアークティックM-51

 この4枚です。再び肌に近い順に、簡単に仕様を見ていきましょう。
 M-51ライナーは片側がウールパイルと片側がナイロン平織のコンビネーションでファスナーなどの付属は持ちません。単純にパンツの中に着る下着に近い簡単な造りです。パイル起毛が立っている側が暖かそうなのでこれを内側と考えがちですが間違いです。さらさらした滑りの良いナイロン側が内側であり、起毛面は外側になります。パイル面は意外に堅いタッチなのですが、上述のように肌には当たらないので全く問題はありません。

 そしてお馴染みのM-51パンツ本体。本製品のモデルとなっているビンテージカーゴの傑作です。

 次にM-51アークティックトラウザーライナー。
 片側が合繊パイル、片側がナイロン平織のコンビです。最初のライナー同様、このアイテムもライナーなので、この両者は単体では運用できません。ただし、最初のそれに比べてこれはパンツの上に着用するので、付属がいくつかセットされています。まずは、フロントファスナー、そして背中心のサイズアジャスターベルトです。このベルトはメタルパーツと頑丈なコットンテープで形成されています。ライナーと普通のパンツの中間の、まさに中途半端なアイテムに見えますが、その着用方法を考えると道理にかなった造りです。着丈も中途半端で、M-51 パンツ本体に比べると遥かに短いのですが、それはパンツインできないほど分厚いのでブーツ直上に合わせてあるからです。このライナーがパイルとナイロン平織の両面を持つことは既に述べましたが、これはパイル面を内側にして着用します。この着用方法が驚異的な保温力を導き出す秘密です。つまり、通常のM-51を境目にして、それぞれのライナーのパイルが二層の空気層を形成するのです。この二重構造が一度暖められた空気を保持し、外気の影響を最小限に抑えます。4点セットの中ではこのアイテムが最も稀少です。このアイテムだけはデッドストックはおろかユーズドでもなかなかお目にかかることはできません。

 そして最外殻、名称は、TPOUSERS SHELL, ARCTIC, M-1951
 下に着用した全てのパンツのシェルとして特化しています。アウターシェルM-51の素材はナイロン混のコットンポプリンです。太い経糸が2本引き揃えられ、細番の緯糸が超高密度に打ち込まれています。そのため生地は薄く、重ね着を阻害しないにも関わらず、充分な遮風、防水性を持っています。腰脇のポケットはフラップを装備していますが袋布を持たず、中に履いたパンツの入り口、スリットの役目を果たします。後ろには右尻にフラップ付きポケットがひとつ、これはパッチポケットで申し訳程度に取り付けられておりサイズも小ぶりです。両腿にはカーゴポケットが付き、コードも同様にセットされています。ウエストにはベルトループを持たず、セルチップ付きのマル紐で固定するようになっています。同時に両腰脇やや前方にループを持ちます。背中心にはこれが無いので、金属フック2箇所だけで固定するちょっと変則的なM-51 専用サスペンダーにのみ対応します。フロントのファスナー部分はスライダー引き手に平紐が通されています。ご想像どおり手袋をしたまま操作できるよう工夫されている訳ですが、その長さがゆうに10cmはあり、かなり厚手のグローブ、例えばムートン製のミトンにも対応可能です。

 M-51 自体は優れたガーメントですが、その後ろにさらに厚いバックアップが用意され、極地アラスカまで対応するよう効率的にシステム構築されている事実には驚くばかりです。

 ナイジェル・ケーボンが生み出した【ARMY CARGO PANT】 

-素材説明-

 「規格品」という言葉があります。
文字通り一定の規格に則って生み出された品物のことです。
「糸の太さ」にも規格品はあります。一本の糸(単糸)の太さは「番手」で表します。番号が大きくなれば大きいほど細くなります。20番の糸は60番の糸の3倍の太さがあります。そして番手は10の単位が「規格」です。
理論的には、10番の糸と200番の糸の間には、10番、11番、12番・・・・198番、199番、200番というふうに、191種類の糸番手が存在します。しかし、1番違いの糸の太さの差は、まさにミクロン単位であるため触感では区別がつきません。ガーメントの材料としては言ってしまえば、「どっちでも良い」くらいの差です。そこで切りの良い10の単位を一定の規格として、10番、20番、30番・・・・の糸が生産され流通しています。10番から200番までの間には20種類しかないので生産する方の効率も上がります。

 一本の糸は「単糸」、単糸を2本撚り合わせたものが「双糸」です。40番双糸は20番単糸と同じ太さです。太さは同じですが双方の糸の原料と設計が同一の場合は2本撚り合わせた40番双糸のほうがより丈夫です。ちなみに、3本撚り合わせれば三子(みこ)、4本は四子(よんこ)。ただし、三子は特殊、四子はかなり特殊ですので、単糸と双糸が大部分です。

 ここから、1940年代から50年代のヴィンテージミリタリーの生地の糸に触れていきます。まずは、40年代、M-43ユーティリティーパンツ。モールスキン組織に使われている糸は経糸、緯糸共に60番手三子です。三子糸特有のドライタッチ感や打込み密度が入れにくいことにより横方向のハリ感の不足や三子による目付が付きやすく生地としての落ち感が気になるという難点があります。50年代の傑作、M-51ミリタリーカーゴパンツ。バックサテンに使われている糸は経、緯で40番双糸と20番双糸。このパンツはデザインのところで述べたように徹底した合理主義の基に設計されています。当然、糸も生産効率を重視した規格品。材料に至るまで徹底した合理主義です。生地は経糸、緯糸のバランスが1対2で糸が太く、打ち込み密度もあるため極めて丈夫ですが、目付が重いことと張感による硬さもあります。

 そして、M-43フィールドジャケット。
 40年代から50年代に至るヴィンテージミリタリーの生地の中で、ナイジェル・ケーボンがベストと判断するのがこれです。その設計を読み解いてみると、M-43ユーティリティーパンツの60番手三子のモールスキンとは組織、糸バランスが異なりバックサテンで、後に開発された完全合理主義M-51と同組織でありながら異なる事が判明しました。規格番手品の40番双糸20番双糸の設計ではなく、経糸36番双糸、緯糸24番双糸の設計だったのです。10単位から外れたこのような糸を端番手(はばんて)と呼びます。このいわば特注品の糸であるがために、絶妙な肉感、風合いとなり、M-51のバックサテンとは全く別のものと言えます。本製品に使用されている糸も、経糸36番双糸、緯糸24番双糸のリング紡績コーマ糸のため、密度感、張感、落感ともに当時の設計を再現できており、これが40年代から50年代のヴィンテージファブリックの研究から導き出し、ナイジェル・ケーボンのカーゴパンツに適する生地と考えます。また、当時とは紡績工程も異なるため、染色前の下生地の工程にてオリジナルの工程を加えたり、省くことにより、着込めば着込むほどに楽しめる質感、風合いの生地となっています。

左) 三年着用 右) 未着用

-染料説明-

 糸の次は染料に目を向けてみましょう。
 現在一般的に広く普及している染料は反応染料で1956年の英国で発明されました。それ以前はVAT(バット)染料が主で、スレン、硫化、インディゴなどがそれにあたります。スレン染料は不溶解性ですが、アルカリ浴にたいしてハイドロサルファイトで還元することにより還元浴(バット)の溶解性となり、繊維表面に染料が染着し、その後の工程で染料が酸化することにより繊維に染料が定着(不溶解性に戻る)する仕組みです。不溶解性ですので雨や汗の影響を受けません。スレン染料はこうした高い染色堅牢度を持つことが最大の特徴です。そしてその色合いは経年変化と共に同系脱落する事もまた大きな特徴です。これは、例えばグリーンであれば元の濃いグリーンが同系色であるグリーンの色合いを保ったまま、徐々に薄いグリーンなっていく過程を指します。単純な事に思えるかもしれませんが、現代に広く普及している反応染料では簡単に見る事のできない現象です。反応染料の場合は同系ではなく思わぬ方向に転ぶ事が大変多くあります。黒や濃紺の生地が色落ちして赤っぽくなってしまう事がそれです。そして、不溶解性に戻ったスレン染料は汗や水に溶けにくい代わりに、擦れによって定着がはがれる要素も持ちます。この事で同系色で所謂アタリが生じ、着用者だけの経年変化を楽しむ事ができます。これは決して反応染料では味わえません。

 だからナイジェル・ケーボンの選択はスレン染料。

 左) 三年着用 右) 未着用 

 端番手双糸、スレン染料。
 これがヴィンテージミリタリーを知り尽くしたナイジェル・ケーボンにしか生み出す事ができない【ARMY CARGO PANT】です。

アーミーカーゴパンツ / ARMY CARGO PANT
Colour : GREEN,KHAKI

- 取り扱い店 -

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