


モールスキンと聞くと、所謂"モグラの毛皮"と称されるように微起毛感のあるタッチが特徴のコットン生地が浮かぶ。
私が偏愛しているOSAKA SPECIALのドレトラも過去作にグリーンのモールスキンを作製してもらったが、そこでモールスキンという生地はタッチではなく、組織としての魅力にフォーカスしたのが記憶に新しい。
そう、そのモールスキンという組織は経糸が細番で、緯糸が太番を用いて、緯糸が表に見える組織であり、打ち込みによってはとても美しくもしなやかな魅力的な生地だ。
そんなモールスキンにフォーカスした、新たな本作。
zukiさんが創り上げたOX'ED SILVERの新作から、とてつもない奥行きのある新たな名品が誕生した。
" HEMP MOLESKIN "
中身を知れば、そう謳いたくなる単語に心が躍り、それは15年このブランドに携わってきた私自身としてもzukiさんのモノづくりの神髄を、改めて知る生地になったと言っても過言ではない面構えをしていた。


OX'ED SILVER
コールマイナージャケット / COAL MINER JACKET
No. 80510480920
COLOUR : CHARCOAL
SIZE : 46 / 48 / 50 / 52




洋服に使用されるモールスキンを参考にすると、一般的にはハンティングやアウトドアのフィールド系に使われていたものが多く、それらの大半は生地に起毛加工を施して毛皮感を出しているものであり、それが巷で言う"モグラの毛皮"を連想させる顔立ちをしているもの。
ワークウェアで用いられているのも、起毛感や毛羽感というのは動物の毛皮と同様に雨に対しても強さを備えて、浸透し難い保護の一面があることからフィールド系の舞台に採用されたのではと推測されている。
そうした意味を含んだモールスキンの一面に加えて、zukiさんがフォーカスした本作は、根底からニッチなゾーンを攻め、ヨーロッパの古いビンテージに存在していた起毛加工を施さずに、撚りの甘い糸を用いで織ることで自然と起毛感や毛羽立ちが生まれる組織をしたビンテージモールスキンなのだという。
加工では無く、そうした使用する糸の設計によって自然と起毛感や毛羽感が起こせる方法をOX'ED SILVERならではの素材で表現できないか?これはもはやzukiさんの生地設計の超人的な頭脳からイメージされた挑戦であった。
そして、それらのイメージを手繰らせる中で、経糸も緯糸もコットンだけでモールスキン組織を作るのではなく、OX'ED SILVERが大切に育ててきた"ヘンプ"でzukiさんはとてつもない料理をした。
ヘンプの特徴を熟知しているzukiさんだからこそのアプローチだった。
ヘンプは原料自体の繊維長が短く、毛羽感を持たせやすく、それらを表見えする緯糸に用いる事で、加工で起毛を掻くのではない自然な毛羽感を原案となったビンテージさながらの顔を表現できるというプロセスを突き詰めたのだという。
そして、ヘンプ自体のポテンシャルとしてもコットンの8倍強度があると言われている素材であることからも、強度性も申し分なく、それらを併用して最強のモールスキンとなるレシピを作ったのだ。



ヘンプは、本当に可能性を秘めた原料だ。
天然繊維で染色できる唯一の中空繊維である事から、空気を含ませられる事で体温を吸い、温度を溜めてくれる機能性がある。
そうした機能を帯びた原料が毛羽立ちする事で生地がこなれていき、麻なのに秋素材や冬素材に育ててゆけるポテンシャルを持つほどだ。
また、中空繊維だからこそ糸自体の重量が軽い事から着心地の軽さにも繋がっている。
そして、初めは光沢感があるが何度も洗濯してゆく事で、水を含み膨らんで顔が立ち、光沢は沈み、より渋味を増した表情に変化していくといくという。それは、それは、楽しみでならない。
zukiさん曰く、初めは硬くも経年することで身体に馴染み、日常の動きに合わせて自分の身体にフィットしていく。
番手が太いヘンプとなれば自分のものにするまで10年かかると言われるほどで、英国の出自であるハリスツイードと同等のクラスの付き合い方というのがとてもしっくりきた。




ヘンプ自体が持つ効果や狙いを熟知した中で、本作の顔つきに大きな魅力を感じずにいられない理由は、生地自体の打ち込み密度である。
経糸にコットン、顔が表見えする緯糸に毛羽立ちを狙ったヘンプが限界に打ち込まれている。経糸のコットンは繊維長の短い緯糸のヘンプ糸を製織時に滑脱させないよう支えになる為のもので必要なのである。ただ、経糸のコットンは細番手である為に表目に見えず、組織混率は6:4の割合でヘンプで構成されているため、私はあえてヘンプモールスキンと謳いたい。
何度もテストをしながら、打ち込み本数や緯糸の太さを調整し、組織に厚みをもたらして仕上がったそれは、zukiさんが糸と組織を設計するレシピが頭にあるが故の超人性以外に他ならない。







デザインの背景としてもこだわりがある。
商品名でもあるコールマイナー=炭鉱夫は所謂ワークジャケットらしいチョアジャケットやワークシャツを主に着用し、そこにサロペットパンツを合わせるスタイルだったのが一般的だったようだ。
だが、テーラードジャケットのようなデザインを休憩時間に羽織っている炭鉱夫のポートレートを見つけた事から、単にワークジャケットのデザインを拾うのではなく、そのピンポイントな様にフォーカスされた。
あくまでチョアジャケットにサロペットという"らしいワークスーツ"ではなく、束の間に羽織っていたテーラードジャケットにサロペットを合わしていたら?という、"異色なワークスーツ"という仮説を立てた事から、本作の組下はサロペットになっている。単にデザインをミックスさせるだけでなく、そうした仮説を立てながら背景を構築していくzukiさんの発想が私は好きだ。
ディテールを覗けば、そんなテーラードジャケットに懐中時計を忍ばせるウォッチポケットや連なるチェーンを通せるボタンホールを加えたり、裏地は単でもポケット裏の補強布は抜かりなく、2枚袖の立体的なパターン、そしてハンドメイドのホーンボタンはアソートに飴色が選択されているのも良い味である。
カラーにおいては、絶妙なチャコール。黒に限りなく近く、陰影も纏った素晴らしいチャコール。
その意味も炭鉱夫達が着用していたワークジャケットがブラックモールスキンのカラーであった事から黒に近づけるチャコールで設定されている。洗えば洗うほど経年が約束されたこの生地に色味さえも変化していくとなると堪らない。










遡る事、約一年前の展示会の時は、ファーストサンプルである事からここまでの仕上がりは予見出来ず、長年店の仕入れをしてきた身としても、自分の甘さを痛感した本作。
パターンもその当時よりも、巧みに修正され、腕通りの良いシルエットにアップデートされていた。
ヘンプは、産地が限られていて今や原料が手に入らないことから極めて希少、また技術が無いと正しく理想を求めた製織が出来ない。
本作のような起毛感が自然と生まれる組織は、製織段階で毛羽立ちが発生する事から技術が無いと糸切れが起きてしまい、生地にならないのだという。
それらを全て技術で調整し、上手く管理できるところでないと織れないのだ。
これら一連の製作は、国内でも僅かな一部の地域と工場で整理加工から染工場に至る仕上げまで完結させたzukiさん独自のルートで成り立っている。
一見では容易に入って来れない独自のルート、zukiさんが築いてきた関係性や歴史が無いと難しい領域だ。
凄まじい背景を宿した本作。
zukiさんが創り上げてきたOX'ED SILVERの思想を体現する生地を、私は改めて学んだ気持ちでいっぱいだ。
各店舗、取扱在庫は枯渇状況にある超人気作だが、オンラインストアでも一縷の望みをかけて検討して欲しい。
予約会にお越しになったお客様は、改めて製品を早く確認して欲しい。
求めていたサイズの予約が出来なかったお客様は、ワンサイズアップでも再度検討して欲しい。
zukiさんのこれまでの生地の探究や知見には何度も驚かされてきた。
zukiさんの作る驚きの道標は衰えを知る事なく、先の未来さえも着実に描いてくれていると思うが故に、進化の過程と言うには恐れ多いが、これはむしろゴールに近いと思いたい程の完成度です。
5年後、10年後の愛着ある変貌が約束された生地。
モールスキンクロスで、これ以上のものを私は知らない。
山内
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