Finally... - 山内の視点 -

 

はじめにナイジェルが描いたデザイン案を見たのは、今から一年以上前のこと。

 

それは、過日に華々しくローンチした、LIMITED EDITION 5と称した英国生産を代表するコレクションに、元々は含まれていたものだ。

 

エベレスト登頂を目指し、ジョージマロリーとアンドリューアーバイン率いるチームの中に、Noel Odell という人物がいた。

 

彼が着用していたベストから着想を得た、そのデザインは使用された素材からしてスケッチ画だけでも引き込まれ、心を掴まれたのをはっきりと覚えている。

 

その理由に、使用された素材がスペシャルだったからだ。

 

秋冬の確たる最上位クラスの素材、ムートンである。

 

現在の円安爆走状態と、物価高に加えて希少素材となるとそれ相当の覚悟がいるモノづくりだと瞬時に理解したものの、製品化に向かえるように何が何でもという闘志さえ芽生えた大好きな素材だった。

 

 

この冬のド級アイテムとして君臨するに相応しいその製品が、朝晩が冷え込み、夏を忘れさせようとする立冬に到着した。

 

 

 

シープスキンベスト / SHEEPSKIN VEST

ITEM No. 80491190000

COLOUR : GREEN

SIZE : 46/48/50/52/54

見た瞬間から分かり、ただモノでは無いオーラを放っている。

 

使用されたシープスキンはこれまでの過去作のハードウェアの強い顔とは違い、上質でふっくらとして握ると弾むような品位を纏っている。

 

ラグジュアリーな匂いさえするそれは、英国国内でも指折りのシアリングムートンを専業としているファクトリーで製作され、繊細なレディース用のムートンコートやジャケットまで製作出来る、器用な職人集団のものだ。

 

カラーもグリーンのようでグレーな顔もする、スモーキーなカラーが雰囲気を物語り、ナイジェルはJUNGLEと呼称していたのがよく分かる素晴らしいカラーだと思う。

当然のように自然に存在する羊の革であるが故にシボや、血筋のような波、凹凸がある事から染色濃度にばらつきがあるため色の出方はそれぞれだが、母体の革が素晴らしいからどれを取っても素晴らしい。

実際、先行予約会でもかけ離れた色味の違いの個体を用意したが、どちらも好評極まりなかった。

 

深いグリーンにもグレーにも、物によってはチャコールにも見える幅のあるスモーキーなカラーがどれも珍しく、裏毛がブラウンベースのカラーで毛先が細やかで短い巻毛がとても愛くるしく、落ち着いた全体のカラーが上品に映る。

 

光が差し込む屋外では、グレーやチャコールのトーンが強く、屋内ではグリーンの深さが前面的となる。

 

濃淡さえ垣間見える奥行きのある色味は、この素材ならではと言って他ならないだろう。

 

ここに至るまでは紆余曲折があり、初案から英国国内でムートン製品を製作できるファクトリーを見つけることは難儀を極め、一度は頓挫した事から LIMITED EDITION 5のメニューから無くなったのであった。

 

それでも弊社代表が古くは関わりのあった老舗ファクトリーを突き詰めて洗い出し、それは規模を変えながらも静かに営んでいる事が分かり、社を挙げて直談判してくれた事から歯車が動き出した。

 

デザイン面も、元々のリファレンスされたOdel vestはクリップパーツが使用されていたが、クリップパーツの重さに対して上質で柔らかなムートンとの相性は再考する必要があった。

 

一時はダッフルコートを象徴とするトグルボタンも一案として検討されたが、私達が大好きなナチュラルホーンボタンを採用してくれ、立派な変化がもたらされた。

 

だが、トグルボタンやクリップパーツであれば、縫い付けによる始末だが、ボタンとなると、ボタンホールが必要になる。

ボタンホールの形状も簡易なものから手間暇がかかるものと、様々だ。

そのハードルを専業ファクトリーの職人達は的確に超えてくれ、理想的な手縫いの伝統的であるボタンホールを作製し、断ち口はステッチ処理がされ、希望した角を立たさない丸みを帯びたデザインさえも採用してくれ輪郭が仕上がっていった。

 

ボタンデザインに変わった事で、面はジャーキンベストを彷彿とさせる事から、野生味を強く出し過ぎないよう肩の張りを削り、肩幅の大きさを広く振りきらない収まりの良いシルエットも求めた。

 

色が良くても、素材が良く無いと質感は付いてこない。

見た目が良くても、形が攻め過ぎてはファッションにおける偏差値が必要になる。

それらが全て良くても、ボタンや付属、縫製、輪郭の始末が簡素だと高級感は生まれない。

 

それらの全てが叶ったのだった。

 

完成したサンプルを見て、携わった全ての人が知恵を出して、まさに英国らしく、私達のようなNigel Cabournファンの方であれば、誰もが欲しいと思えるムートンベストが出来たと興奮した事を昨日のように覚えている。

 

 

 FITTING SIZE 48 / HIGHT 188cm

 

大好きなシャンブレーシャツや、OX'ED SILVERのFARMER SHIRT LINENとも合わせてみる。

 

どちらも良いに決まっている。

 

FARMER SHIRTのロング丈とも相性が良い着丈の長さも好きなバランスだ。

 

また、サイズ感もジャストめを選んでも心地良い。

 

嵩の高さを感じるムートンの、柔らかくも厚みのある弾力が芯から温まるのを感じる。

 

フロントのビッグポケットもサイドシームを跨いだデザインがナイジェルらしく、たまらなく良い。

 

こういうセンスが本当に上手いと、つくづく思わされる。

リバーシブル仕様では無いが、着たくなる抜群の顔つき。

 

裏側である以上、前合わせが逆になるが、着て欲しい狙いを込めて、洗濯表記タグはサイドシームの縫い目に付けずに、ポケットの内側に伏せた拘りも実はある。

 

ブランドタグを露わに、チャレンジして欲しい。

 

⠀⠀

FITTING SIZE 52 / HIGHT 188cm

 

LIMITED EDITION 5より、SANDY IRVINE JACKETと合わせる最強のスタイル。

正しくアウター使いの爆発的な威力。

ローゲージのニットでも可能な包括力を持っているが、肩の大きさを振り切っていない良さが、ここに活きてくる。

ジャケットよりも肩を張らないので、鎧の印象を作らず、ダウンベストと同じ要領で楽しむ事が出来る。

ジャストで着るなら48、オーバーに羽織るなら52、どちらにも合わせるなら間の50か。

その塩梅を見つけて欲しい。

 

 

 

これまでも、コロナ過以降の世界のものづくりの市場は一変し、英国製品のモノづくりが如何に困難か、売り場にいるスタッフの誰もが店頭の変化を感じてきた。

 

日本国内でもNigel Cabournのような拘ったモノづくりは容易では無いが、英国の現在の情勢、景気、簡単には解決されない職人の人手不足を踏まえたら、本当に生産する工場・場所さえ無いと言われている。

 

だが、Nigel Cabournブランドのオリジンである、英国生産の灯を何としても消さない。

 

そのステータス性を追求した結果を、このムートンベストが示していると私は思う。

 

そして、時を同じくして、ムートンベストと並行して動いていたプロジェクトの英国製ダッフルコートもまもなく届く。

 

週末の店頭が、一気に冬に向かって走り出した。

 

 

山内

 

 

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