
今回の舞台は宮城県。2017年にオープンした蕎麦・甘味・日用品店「鹿落堂(ししおちどう)」のオーナー、兵藤 雅彦氏を訪ねた。
生まれ育った街に目を向けると、進むべき道が開けた

「若い頃は田舎が嫌いで舶来主義だったんですが、歳を重ねて、肩肘を張って生きていたことに気が付き、宮城に興味が湧いてきました。ちょうどその時、地元を一番感じられるのが、自分にとって蕎麦だったんです。」
自分の内を磨くことで、スタイルが出来上がっていく

「ある日突然、オーナーが古着は女子ウケしないと言い出して、ギャル男スタイルに変わってしまって(笑)。ただ、徐々に不思議と彼のスタイルがカッコよく見えてきたんですよ。その時に、人間って最終的には中身なんだって学びましたね。」
蕎麦を食べた時の感動を、お客様にも感じてほしい

「十割蕎麦は、麺を噛んで香りや味わいを楽しむものだと思っていましたが、その店のものはツルッとしていて喉越しもよくて、麺を啜るたびに驚きました。それから、独学で蕎麦作りの研究を始めたんです」

手打ちされた蕎麦は、ズズズっと気持ちよく啜って食べたくなる滑らかな口当たり。塩、めんつゆ、薬味という風に、徐々に味付けを変えながら、素材本来の香りと味を堪能できる。
「私は旅先で、その土地で採れたものを食べた時に、一番喜びを感じます。だから、自分も宮城の素材を使った蕎麦を提供しているんです。人に喜んでもらうことが、私の喜びであり、それが働く上でのやりがいでもあります。」
歴史のある場所だから、モチベーションを維持できる

2階建ての店内には飲食スペースのほか、日用雑貨の販売スペースやライブパフォーマンス用のステージもある。国道に面した東側は、全面が窓ガラスになっていて、太陽が登って朝日が店内に差し込む頃、兵藤氏は仕込みを始める。
「日々コツコツと妥協なく精進するのが理想です。たまにだらけそうになると、歴史を感じるこの店が、自分を奮い立たせてくれます。最近では、外壁に自生していた蔦が、店内まで伸びてきました。時間が経って、店が変わっていくのも楽しみのひとつです。」
惹かれるのは、デザインや機能に納得できるアイテム

蕎麦打ちのときに欠かせないのは、フランス軍用の白いエプロン。肉厚なヘリンボーン編みで、とても丈夫。膝下まで着丈があるから、蕎麦の打ち粉が舞ったとしても、服が真っ白に汚れない。

理想の自分になれるより、今の自分に似合う服を着たい

この日はナイジェル・ケーボンのアーミーカーゴパンツ。裾をラフにロールアップしてできるシワや色落ちを愛でて、自分専用のユニフォームに育てていく。うっすらと汚れたジャーマントレーナーとの組み合わせもカッコいい。
「振り返ると、以前は服を着こなすというよりも、集めているという感覚だったのかもしれません。今は、古いものと新しいものを織り交ぜながら、自分のライフスタイルに合うようにコーディネートしています。それは、日用品を選ぶときも同じ。道具として、気兼ねなく普通に使えるものがいい。」
好きなもので溢れる店を、走り続けて、守っていく

「自分は止まっていられないタイプの人間。休みの日でも、誰かに会ったり、どこかに行ったり。鹿落堂は、そうして見つけた好きなものを詰め込んだ場所です。いろんなところで吸収したものが、店の至る所に反映されている。掃除、コミュニケーション、蕎麦打ち、どれも疎かにすることなく、健康に気をつけながら店を続けていきたいです。」
