MODERN WORKERS / 鹿落堂

「ナイジェル・ケーボン」が考えるモダンワーカーとは、“ワーク”と“ライフ”、その両方にスタイルを持っている人のこと。この連載では、国内のローカルエリアに焦点を当て、各地で活躍するモダンワーカーの日常に迫る。

今回の舞台は宮城県。2017年にオープンした蕎麦・甘味・日用品店「鹿落堂(ししおちどう)」のオーナー、兵藤 雅彦氏を訪ねた。

 

生まれ育った街に目を向けると、進むべき道が開けた

兵藤氏は、生まれも育ちも宮城県。奥羽山脈と太平洋に挟まれた自然豊かな地元の魅力を、食を通じて発信している。 

「若い頃は田舎が嫌いで舶来主義だったんですが、歳を重ねて、肩肘を張って生きていたことに気が付き、宮城に興味が湧いてきました。ちょうどその時、地元を一番感じられるのが、自分にとって蕎麦だったんです。」

 

自分の内を磨くことで、スタイルが出来上がっていく

蕎麦職人になる前、兵藤氏は地元で有名なミュージッククラブのバーテンダーだった。20年以上、夜な夜なその場に集った洒落者たちとの会話を楽しんでいた。そんななか特に影響を受けたのが、古着店も営むクラブのオーナー。情熱的で人情深い彼のスタイルに憧れて、当時は兵藤氏も全身古着に身を包んでいた。

「ある日突然、オーナーが古着は女子ウケしないと言い出して、ギャル男スタイルに変わってしまって(笑)。ただ、徐々に不思議と彼のスタイルがカッコよく見えてきたんですよ。その時に、人間って最終的には中身なんだって学びましたね。」

 

蕎麦を食べた時の感動を、お客様にも感じてほしい

兵藤氏定番の地元での過ごし方は、宮城県の温泉地、鳴子のお湯に浸かること。蕎麦職人を志したのも、温泉で癒された帰り道。ふと立ち寄った蕎麦屋の十割蕎麦に感動したのがきっかけだった。

「十割蕎麦は、麺を噛んで香りや味わいを楽しむものだと思っていましたが、その店のものはツルッとしていて喉越しもよくて、麺を啜るたびに驚きました。それから、独学で蕎麦作りの研究を始めたんです」

「鹿落堂」の十割蕎麦は、兵藤氏が食べて感動した一枚を参考にしている。宮城県の山間部で栽培された蕎麦の実を、地元で採掘された安山岩の石臼で、ゆっくり時間をかけて粗挽きするのがこだわりだ。

手打ちされた蕎麦は、ズズズっと気持ちよく啜って食べたくなる滑らかな口当たり。塩、めんつゆ、薬味という風に、徐々に味付けを変えながら、素材本来の香りと味を堪能できる。

「私は旅先で、その土地で採れたものを食べた時に、一番喜びを感じます。だから、自分も宮城の素材を使った蕎麦を提供しているんです。人に喜んでもらうことが、私の喜びであり、それが働く上でのやりがいでもあります。」

 

歴史のある場所だから、モチベーションを維持できる

「鹿落堂」があるのは、江戸時代から続く老舗旅館の跡地。仙台市街を見渡せる鹿落坂のてっぺんで、近くには伊達家の御霊屋があり、そこでは武将たちが鷹狩りを嗜んでいたという。

2階建ての店内には飲食スペースのほか、日用雑貨の販売スペースやライブパフォーマンス用のステージもある。国道に面した東側は、全面が窓ガラスになっていて、太陽が登って朝日が店内に差し込む頃、兵藤氏は仕込みを始める。

「日々コツコツと妥協なく精進するのが理想です。たまにだらけそうになると、歴史を感じるこの店が、自分を奮い立たせてくれます。最近では、外壁に自生していた蔦が、店内まで伸びてきました。時間が経って、店が変わっていくのも楽しみのひとつです。」

 

惹かれるのは、デザインや機能に納得できるアイテム

「鹿落堂」のユニフォームは、自分たちで炭や藍を使って染めた鯉口シャツ。袖口が鯉の口のように窄まっていて作業がしやすく、着込むほどに変化する色合いも美しい。

蕎麦打ちのときに欠かせないのは、フランス軍用の白いエプロン。肉厚なヘリンボーン編みで、とても丈夫。膝下まで着丈があるから、蕎麦の打ち粉が舞ったとしても、服が真っ白に汚れない。

「蕎麦打ちは、スポーツのようなものなんです。体をたくさん使うので、パンツはゆとりがあって動きやすい方がいい。ナイジェル・ケーボンのカーゴパンツは、ゆるくテーパードしていて、リラックスシルエットでも、すっきり上品に見えます。履き心地が、とてもいいですね。」

 

理想の自分になれるより、今の自分に似合う服を着たい

兵藤氏が好きな服は、経年変化を期待できるもの。仕事でも休みでも、耐久性が高いミリタリーウェアが活躍する。

この日はナイジェル・ケーボンのアーミーカーゴパンツ。裾をラフにロールアップしてできるシワや色落ちを愛でて、自分専用のユニフォームに育てていく。うっすらと汚れたジャーマントレーナーとの組み合わせもカッコいい。

「振り返ると、以前は服を着こなすというよりも、集めているという感覚だったのかもしれません。今は、古いものと新しいものを織り交ぜながら、自分のライフスタイルに合うようにコーディネートしています。それは、日用品を選ぶときも同じ。道具として、気兼ねなく普通に使えるものがいい。」

 

好きなもので溢れる店を、走り続けて、守っていく

日々の積み重ねが、何よりも大事。それが、兵藤氏の仕事のモットーだ。目尻に皺のできる優しい笑みを浮かべながら、兵藤氏はスローな口調で抱負を語る。

「自分は止まっていられないタイプの人間。休みの日でも、誰かに会ったり、どこかに行ったり。鹿落堂は、そうして見つけた好きなものを詰め込んだ場所です。いろんなところで吸収したものが、店の至る所に反映されている。掃除、コミュニケーション、蕎麦打ち、どれも疎かにすることなく、健康に気をつけながら店を続けていきたいです。」

SHOP INFORMATION
SHOP:鹿落堂 / ししおちどう
INSTA:@shishiochido
ADDRESS:仙台市太白区向山1-1-1
CONTACT:022-395-8074
掲載アイテム
一覧に戻る